あるホールのオルガンパイプ修理 1
画像を使った記録と問題の検証


出張作業から戻り、即現地を訪ねた。


Disの惨状

歌口は完全につぶれ、上唇と下唇がほとんど付いている。 両側の髭も変形、Kern(歌核、水平な板、下唇との間に風が通る隙間を構成する)にはパイプ体部の重量が掛かって一部変形している。


 Disパイプ倒れ止めの金具部分

この画像ではロープが邪魔して明瞭ではないが、金具はパイプ支え(Lehne)まで下がり、留め金にパイプの荷重が掛かっている。

パイプ下部を裏側から見る

歌口の裏付近、
歌口部分がつぶれて、パイプが屈曲しようとしたが下Lehneがあるため背面が押しつぶされている。

この下Lehneが無ければさらにひどい状態になっていたことであろう。

 私が見たところ、予断を許るす状況ではない。 Disのつぶれはおそらくこれ以上には進行しないであろう。 しかし留め金がどれだけ耐えるかはなんとも言えない。

 CからEまでの全てのパイプに多少のつぶれが見られた。 特にCisとEは心配な状態であった。 歌口側面で屈曲が始まっていた。 屈曲が始まると進行は加速する。 年末とは言え、至急応急処置を施すべきである。 私は応急的に6本のパイプに、ロープを掛けた。 学校には、Y社にすぐに連絡を取り、明日にも応急処置を施すように強く要請することを進言して帰宅した。

学校の要請によって、一日置いてY社オルガン担当が来訪したそうだ。 処置をした、ということであった。
Disは手遅れとしても、進行中の他のパイプのつぶれの進行を軽減する処置をY社の人たちが取ったものと私は理解した。
しかし、後になって判ったのであるが、そのような処置は全くしていなかった。 私が取付けた倒れ止めにロープを追加しただけであった。 この理解力の不足、無能さ加減にはほとほとあきれた。 一応ヨーロッパでオルガン製作修業をして来た人であるが、自ら考えるということを放棄したのであろうか?

 Y社担当者にはそれなりに言い訳は有るのであろう。 しかし、
自分が保守を行っている楽器にこれほどの問題があると知らされ、そして目の当たりにしていながら、自らなんら対処しなかった事実の前には説得力のある言い訳は有り得ない。  間接的に私に言われて初めて動いた、動いても的外れな処置しかしなかったのだ。
自分が保守をしているオルガンの問題は他人事なのか。


もう一軒の国内オルガン製作者も私と前後して状況を見ている。
概略 「これは製作者の責任だから ・ ・ Casavantに補償を求めるように」 とだけ言って帰ってしまったそうだ。
私は(オルガンの仕事をY社からオルガン製作者の手に取り戻す)「せっかくの機会を ・ ・ 」 失うのはもったいないと思うのだ。


 使用略語
HW  Hauptwerk 主鍵盤部     I 鍵盤
SW  Schwellwerk スェル鍵盤部 II 鍵盤
Ped      ペダル鍵盤部


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Angefangen 17.Feb.2004