建築工事に伴うオルガンの養生


オルガンが入っている建築空間で工事を行う場合の注意をまとめてみました。

1. 埃が入ることがないように細心の注意を払ってください。

工事業者が行う養生ではしばしば不十分です。家具程度の扱いしか考えに浮かばない業者が多いように感じます。
オルガンの前で天然石を使った工事をした例がありました。 「単にオルガンを覆うだけでは足りませんよ、シートを掛けて確実に目貼りをしてください。空気中に浮かんでいる埃が入ることがないように・・」と言っておいたのですが、その業者は安易にビニールをオルガンに掛けただけで済ませたのです。 確かに埃はオルガンに直接飛び込みはしないでしょう。 しかし、空気中を漂っている微細粉末はビニールの隙間からオルガンの中に入り、時間と共に沈下してオルガンの中に堆積したのです。 このような微細塵埃をあなどってはいけません。

対策:ビニールシートでオルガンを覆い確実に目貼りをする。 ビニルシートと床の間も目貼りをする。 さらに、塵埃が出る部位とオルガンがある部分との間に隔壁を設ければ完全でしょう。
ビニールシートはオルガンの正面のパイプの間には空間を設け、摩擦することがないように注意をしてください。 何ヶ月も養生をしたままにしなければならない場合、風でビニールシートとパイプが擦れて傷を作る可能性があります。
完璧を期するのであれば、養生内へ清浄な空気を送り込み、常時内圧を高めておく方法もあります。特に目貼りが完璧にはできない場合、これは有効な方法です。送り込む空気の湿度・温度に注意をしてください。

送風機の吸気口も埃から守ってください。 吸気口に埃が堆積している場合には安易に送風機の電源を入れないようにしてください。

工事の最後まで養生を外さないように最大限の努力をしてください。 工事作業員や監督にとって埃が少なくなったと感じられるとしても、埃はまだ空中を漂っています。
埃の量にもよりますが、養生を外す時に埃を立てないように注意をすることも肝要です。

2. 、高湿度、極端な乾燥はオルガンに致命的になることがあります。

水分がオルガンに入ることは論外ですが、工事現場では高湿度や極端な低湿度になることがあります。
そのような状態が予想される場合には、適切な方法でオルガンの養生内部の換気を行うべきです。
梅雨時から夏季にかけて長期間オルガンを養生したままにしなければならない場合にも注意が必要です。 前項に記したとおり、養生内部の圧を上げることと同時に換気を行うのが最良でしょう。

3. 振動を受けること

多少であれば気にすることはないと思います。 長期間にわたって近くでエアーハンマーでハツリを行う場合には注意をしてください。 オルガンに実際に振動が伝わるかどうかは設置条件によって異なります。 問題になる場合は少ないと想像できます。

4. オルガン製作者の確認を取る

工事完了後、必ずそのオルガンを担当するオルガン製作者の点検を受けることをお薦めしたい。
オルガンの状態は
a. 全く問題ない
b. 埃が入っているがさし当たって放置してもオルガンを傷めるほどではない
  但し大規模保守の時期は早めなければならない
c. 全面的に掃除をしなければ問題を引き起こす可能性がある
d. 埃が調律をもくるわせるほどで、早急に全面的に掃除をしなければならない
e. 乾燥で木部のくるいや割れが発生している、あるいはメカニズムの動きに問題がある
f. 高湿度(極端な場合には濡れ)で木部にくるいが出ている
  あるいはメカニズムの動きに問題を生じている。
g. 振動でくるいを生じている
と分類できるであろう。症状は複合的であることも考えられる。

5. 建築工事契約に当たって

埃からオルガンを守るために養生をすること、極端な高湿度と低湿度を避ける算段をすること、振動を直接受けることがないようにすること を明示しておくことは大切でしょう。
また、工事完了に伴って 担当オルガン製作者の点検を受けることも明記しておくべきでしょう。
オルガン製作者が完成検査に間に合わない場合にはオルガンについては保留とするのが賢明でしょう。

建築業者によっては、オルガン製作者が期待する以上に良い養生をしてくれるところもあります。一方認識が足りない業者にあって、その後大きな費用負担を強いられた例もあります。 オルガン全体の掃除となると相当な時間と費用を要することとなります。 予め担当のオルガン製作者に相談をされて助言を得るのが賢明でしょう。
小さなオルガンの場合にはオルガン製作者自ら養生を担当することもできます。


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Aug..2006