S学院のオルガン 移転・改造

III 現場での組立 3


 SWのメカニズム、鍵盤から来たメカニズムはここで直角に方向を変えてオルガンの前に向かう。

 弁の大きさは必要な大きさの倍近くあり、パイプへの風の供給には十二分であった。 画像の直角てこの垂直な腕に注目していただきたい。 水平に左に伸びるメカニズムとの連結はてこの上端から少し下げてある。 弁の動きを少なく(それでも風量は不足しない)することにより、それ以前のメカニズムの負担を減らし、かつ鍵盤を軽くしている。

 この部分の前には回転軸機構があるのでこの部分の負担を軽くすることにより、回転軸のねじれたわみによる演奏感覚への悪影響も減らすことができる。

 小さな水平器を用いて、直角てこの理想設定位置を求めている。 視覚だけに頼ると、56個ものメカニズムを合わせるうちに錯覚で誤差を生じることがままあるのでこのような方法を取っている。

 改造した送風関係
オルガンの背面、中央部分。 下から見上げたところ。
 下には蛇腹型で新たに作ったBWの吹子、 その上は貯風吹子(Magazinbalg)、上の人物の右手が掛かっているのは、その上にある電動送風機から風が降りてくる導風管。

 従来はMagazin以外は独立した吹子は無かった。 計4台の吹子を新たに設けるにはかなり苦労した。 それらを設置する場所が確保できたことは幸いであった。 全ての吹子は水平に取付けることができ、重りを載せて加重できた。

 演奏台の裏、BW演奏メカニズムの回転軸機構(Wellenbrett, Rollerboard)が見えている。

 右と上に2本 見えているのは、音栓メカニズム。


てこの中央部の窪みを作って支点としていた。 構造的に最も曲げ応力がかかる部分を最も弱く作っているのだ。 単純な力学の問題であるのだが ・ ・ Boschの設計者の思考はどうなっているのか理解にくるしむ。

 BW鍵盤裏のてこ。手前の黒いパイプはこのてこの作用には関係ない。 てこは56本平行に並んでいる。 一番奥に見えている板は前記の回転軸機構(Wellenbrett, Rollerboard)の表側である。 手前の並んでいる部品は鍵盤とこのてこを繋ぐ部品。

 鍵盤を押すと、鍵盤の一番後ろが上がり、てこの前側を押し上げる。 左右に斜めに通っているのはてこを上から押さえているてこの支点。 てこの中央部が支点で押さえられているので、てこの後部は下がる。 てこの後部で垂直に上ってゆくメカニズムが引き下げられる。

 BWも例外ではなかった。 弁は異常に大きく、鍵盤も重たかった。 従来てこの支点はてこの中央、画像ではへこんでいる部分にあった。 画像のように支点を後方にずらして鍵盤の動きと弁の動きの比率を変更した。 弁の動きを減らして鍵盤の負担を軽くしている。 低音部では空気量を必要とする、高音部では少ない、 支点が斜めに取付けてあるのはそのためである。

 黒いのは鉄パイプ製の音栓メカニズムの回転軸機構。

 このオルガンはてこや回転軸を使った純粋なメカニズムで風箱の音栓滑り弁を動かす。 コンビナツィオン(音栓組合せ記憶装置)で音栓メカニズムを動かすために左のような電磁石を使っている。

 音栓を動かす間、1秒にも足りない時間ではあるが、大電流を必要とするために大きな電源装置を必要とする。

 調整をしながら組立ていて気付いたのであるが、これらの音栓メカニズムを設計したBoschの担当者は、全くてこの比率計算を行っていないようでった。 ほとんどの音栓で、必要以上に音栓滑り弁を動かしている。 中には動かしすぎて次の風穴にまで到達してしまい、音栓Offの状態で風漏れを起こすものまであった。

 適切な行程を滑り弁に与えておけば、電磁石の負担も少なくて済むのであるが、そういった配慮ができる人材ではないように見受ける。

 工房から近いので、オルガン本体の組立が進んでから、パイプを搬入した。

 可能な範囲で工房で改良を施してきたが、現場での整音作業は新しいオルガンを整音するよりも苦労が多かった。

 SWのパイプ群、一旦全てのパイプがきちんと入ることを確認する。 そして再度パイプを取り出して、最後の掃除や点検を行ってから、導風管を取付ける。
そして、再びパイプを入れて整音作業を待つことになる。

 パイプはオルガンの中にあるのが最も安全なのだ。

 このオルガンでは Pedal の Principal 16' 最低音4本は木管である。
あまりにも重たく、また保管に困った。
中央で切断して工房に預かっていた。 現場で再び接着している様子。 2.5mの締め具を二つ連結して接着している。

 HWの風箱上空。 下から見上げた画像。 手前のパイプ支えはHWのTrompete 8'のもの。 ここだけではなくいたるところ、パイプ支えは心もとないものであった。 固定がいいかげん、とてもつかまって上ったり、足がかりにできるようなものではなかった。 全てはできなかったが、できるだけ補強を施した。

 画像の下に並んでいるパイプ群はCornett 5列 である。他のパイプよりも高い位置にあるのがこの音栓の伝統的配置である。 しかし、このオルガンでは調律に行く手立てが無かった。 立つところもない、掴まるところも無い。 右上の板はパイプ支えの補強と同時に取付けた腰掛けである。
ここに座ってCornettの調律が可能になった。

 SWの内部。 このWerkの調律は事実上不可能であった。 手が届くパイプはごく一部。 おそらく完成後はほとんど調律されていなかったのであろう。

 スエル扉を2枚犠牲にして柱とし、それを使って画像のような止まり木を設けた。 ようやくある程度のパイプに手が届くようになった。 SWはそれでも調律が非常に困難なWerkであることには変わらない。

 これはBosch設計者の技量の問題よりも、設置場所の条件を考えずに要求された音栓仕様を安易に受け入れてしまうBoschの姿勢に問題があったのであろう。

 オルガンは全ての点において建築との融和を大切にしなければならない楽器だと思う。

 使用略語
HW  Hauptwerk 主鍵盤部     I 鍵盤
SW  Schwellwerk スェル鍵盤部 II 鍵盤
Pos  Positiv ポジティフ部     III 鍵盤
Ped      ペダル鍵盤部


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Angefangen 15.Nov.2003