S学院のオルガン 移転・改造

III 現場での組立 4


 正直、これにはおどろいた。 PedalのPrincipal 16'のパイプをこれで支えていたのだ。
鉄板ビスを錫鉛合金に入れて止め金(Hafte)をパイプと繋いでいる。 半田付けは形ばかりで実際には全く(本当に全く)付いていなかった。 よくこれで10年近い年月無事であった。 大きな地震が来なかったのが、ただただ幸いであった。

 Boschからは組立要員が何名か来たようであるが、誰一人としてきちんとした半田付けが出来なかったのであろうか。 道具が無かった可能性はある(ドイツは電源が220V、半田こてを持ってきていても使えない)。 しかし、組立作業の時、日本人のオルガン製作者(マイスターまで持っている人物)が協力していたことは知っている。 ただのアルバイトではないのだ。 秋葉原へ行けばパイプ半田付けにうってつけの半田ごては手に入る。 なんという中途半端・無責任な仕事をしているのであろう。

 ねじの穴は半田付けしてふさいだ。
Hafteを新たに半田付けした。

 パイプの材料も半田であるので、半田付けは同じ材料同志が溶け合って付ける 溶接 である。 きちんとした半田付けを行えば Hafte とパイプは一体となるのであるから最も強い接合になる。

 Pedal の Principal 16' と HW の Principal 8' の正面のパイプは工房で研磨して光沢を取り戻した。
 正面パイプの吊りこみ作業。 最低音4本は木管であるので、正面のパイプは E から。 重たいとはいえ、足場も良く比較的楽であった。

 Pedal の正面の天井。 パイプを吊るための鉄骨。 他のところが弱々しいのに較べて、ここはしっかりしている。 しっかりしている部分を支える側壁は弱々しかったので(視覚的貧弱さもあり)新たに作ることになった。

 この鉄骨にワイヤーを掛けて、建築構造へ引いている。 大地震の時にオルガンが前へ崩壊するのを防ぐためである。
我々が自分でカシメられるのは5mmφのワイヤーが限度である。 少々細い。 そこで複数のワイヤーを使って、それぞれを差動的に動けるように取付けて必要な強度を出すようにしている。

【注】差動的:2本のワイヤーに異なる力が掛かかっても、その力の差が無く均等に力がかかるようにワイヤーが動けるようにすること。 2本のワイヤーがあっても力が不均一に掛かっていては、大きい力が掛かっているワイヤーが先に切断してしまうため、結局1本のワイヤーの強度と変わらないことになる。

 オルガン内部で,オルガンの倒れ止めを付けられたのはこの2箇所だけであった。

 中央部、演奏台の裏、SWの重たい風箱が乗っている部分を補強できただけ良かったと思っている。 決して十分とは言えないが前方への倒壊はなんとか防げるであろう。
右に見える筋交い状の帯鉄は風箱などを支える鉄骨に新たに溶接した。 その筋交いをワイヤーで床に引いている。 床にはコンクリートにケミカルアンカーを打ってアイボルトを 固定している。 アイボルトには曲げ応力が掛かるので5mm厚の鉄板で大きなわっしゃーを作り、ボルトのねじ部に曲げではなく引っ張り応力が掛かるようにしている。

 オルガンの背面、旧礼拝堂ではコンクリート壁に何本かの(この面積で10本あったか)5mmねじで固定してあっただけの壁である。

 補強を施し、必要なところには取っ手や足がかりを設け送風機や吹子へ行けるようにした。 またオルガンの屋根上にも上ることが出来るようにしている。

 下に見えているのは HW Cis側の吹子。
黒いのは吹子の重り、まだきちんと置いていない。

 撮影したのは送風機の防音箱の上から。

 前記の撮影と同じ場所から、少し画角の違う画像。 HW Cis側の吹子の手前に SWの吹子も見えている。

 SWの吹子の左の壁には建築側で構造鉄骨から出してもらったアンカーが見えている。 そこからはゆるいがワイヤーでSWの風箱の後ろ付近を引いている。 非常に緊結が難しい位置であったが、オルガンの前倒れだけは防止したいので何箇所かこのように建築構造に繋いでいる。

 その間、左の建築壁に取付けてあるのは、直流電源箱。 オルガンの記憶装置や音栓駆動マグネットに電力を供給する。

 使用略語
HW  Hauptwerk 主鍵盤部     I 鍵盤
SW  Schwellwerk スェル鍵盤部 II 鍵盤
Pos  Positiv ポジティフ部     III 鍵盤
Ped      ペダル鍵盤部


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Angefangen 15.Nov.2003