あるホールのオルガンパイプ修理 3
画像を使った記録と問題の検証


工房に持ち帰ったパイプは作業の間保管しなければならない。 通常この大きさのパイプは立てて保管する。 寝かせておくと自重で扁平になってしまうからだ。 しかし、今回のパイプは歌口部分に屈曲が始まっているため、立てて保存することはできない、寝かせて保存することとした。 幸い場所は十分にある。 パイプが扁平にならないよう、十分なクッションの上に寝かせて、毎日90度ずつ回転させることにした。 そのため休日にも当番を決めて工房に出ることとした。


作業の解説
CからFまで
計6本のパイプに手を加えた。 Fには全く損傷は認められなかったが、念のため補強を施した。
Disについては別ページで詳しく記す

 
Rollbock コロ台
 パイプを引き取りに行く前に、左のような台を4台製作した。 パイプを載せる台である。 パイプを載せたまま簡単にパイプを回すことができる。
 フェルトであれ毛布であれ、パイプに横方向のこすれは、痕が非常に目立つ。 コロであればその心配は少ない。

実は、後で気付くのであるが、このパイプでは心配は不要であった。 なんと錫鉛合金のパイプに塗装が施してあったのだ。 私にとっては想像外のことであった。

 コロ台を使っていても長時間パイプを同じ位置で載せたままにしておくのは心配である。 長いコロを使っているとは言え、パイプの荷重を受ける面積は少ない。
頻繁に回してコロが当たる位置を変えながら作業をする必要がある。

 

 歌口付近が弱っているために、修正するだけではなく補強を施さなければならない。
 いくつか作業手順は考えられるが、Oberlabium(上唇)を外して、そこから作業をすることとした。

 このパイプのOberlabiumは、この大きさとしては珍しく、パイプ本体の裏にV溝を罫書き、それに添ってへら押し法で作ってあった。 この大きさのOberlabiumをへら押しで平らにする作業はかなり大変であろうと思う。

 薄い金属鋸で切り取った。

 

 補強材には銅版を使用した。 焼きなませば楽に整形できるが、弱くなる。 Ambossの角(つの)の上で少しずつ整形してパイプの形に合わせた。

 

 上唇を外した後、銅版の補強材をパイプ内部に半田付けしているところ。

 パイプ自体が半田素材(錫鉛合金 このパイプは推定錫70%)であり、融点が近いため半田付けは簡単ではない。 パイプ壁を溶かし通してしまっては穴があく、全く溶かさなければ融着しない。 その上、この体制では半田鏝先と材料との角度が思うようにならない。

作業は実を取って、確実な半田付けを主とし、見た目は従とせざるを得なかった。 作業を終わってみれば、見た目の問題は皆無と言ってよかった。

 

 内面、両側に施した補強

 

 補強が終わってOberlabiumを取り付けるところ。

パイプの光沢が不思議だと思っていたのだが、この時になって、パイプに透明ラッカーの塗装が施されていることに気付いた。 なんと鈍なことであろう、自分で嫌になる。
塗装したパイプに出会ったのは初めてであった。

 半田が余計なところに流れないように塗料(自分で調合する水性塗料)を塗ったのであるが、ラッカーのせいで載りが悪い。
半田付代を削る時になって異常に気付いた。

 

結局 マスキングテープで保護しながら半田付けをすることにした。

幸いこのラッカーは熱には強かった。

  

 再び同様な問題が生じないように、パイプの上端をオルガンの屋根から吊って荷重を分散することにした。

 吊る部分も補強をして、金属が裂けてくることを防がなければならない。 ここにも銅版を半田付けした。

 

 Dis,E,Dの3本のパイプではKern(歌核、水平な板、下唇との間に風が通る隙間を構成する)とパイプ足(円錐部分)との接合が悪くなっていた。

 ひどかったDis,とE ではKernを外して半田付けをし直した。

 損傷が少なかったDでは、パイプ胴の側面を少し切り外して半田付けをし直した。 その後切り外した部分を再度半田付けして戻した。

 左画像は、完了前、半田付けが不十分な時の画像である。 ご心配なく。


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Angefangen 17.Feb.2004