宮崎県立芸術劇場オルガン 組立の記録

外郭筐体部分 未完


 4tトラック7台分の部材を運び込み終わるまで2日かかりました。 雨の中現地で協力を依頼した大工さんたちがトラックから建物への足がかりを作ってくださり、非常に助かりました。
また、トラック輸送を担当した日立物流の運転手さんたちの献身的協力にも助けられました。 これを機にその後のオルガン輸送ではいつも 日立物流に依頼しています。 この時に中心になった入内島運転手さんは、その後完成した楽器に再会する機会があり、『涙が出るよ』と感激してくれました。

協力的な空気で作業を行えた中で、 「搬入時には一部座席をどけて欲しい」という、私を始め 設計事務所の主任、現場監督、作業共同体担当者、県庁担当者からの懇願を理由も無く  『できない』 の一点張りで 頑として拒んだのは『「椅子のコトブキ」、 「公共空間のスタンダード」』と自ら称している 潟Rトブキ  の監督でした。
 パイプの入った木箱、演奏台、風箱など、通路よりも幅の有る荷は全て人力で椅子の背もたれよりも高く持ち上げて運ぶはめとなったのです。 もちろん途中で一旦降ろすなどということも出来ません。 左右に人がついて持つ事もできません。 強力のような運転手さんたちの協力のおかげでなんとか運んだのです。
可能なことを一人の意地で拒絶した結果、我々が受けたこの時の労苦はあえてここに書き残すに値するのである。

 運転手さんの中に、熊本からお父さんを一緒に乗せて来た人がいました。 お父さんも一緒になって重い荷物を搬入してくれたのですが、自分の車の荷が下りると、お礼を言う間もなく帰ってしまいました。 珍しいものを運ぶから ・ ・ というので一緒に来てくれていたのでした。 今でも心残りです。

外郭筐体部製作:(有)日章装備 畑 敏夫/横浜市
作業協力:大野工務店 中村班/宮崎市
運 送:鞄立物流 横浜支店


2004年10月の定期調律保守の時に発見 (須藤撮影)
オルガンの屋根の上には色々なサインが残っている、その中に
日立物流の運転手さんたちのサインがあった。
おそらく、オルガンの筐体木工を担当した(有)日章装備の畑さんが
降ろした荷の中からオルガンの中央の天井板を探し出して運転手さん
達の名前を残すように配慮したのであろう。 前に記した熊本から父子で来られたのは坂井さんであろうか。 天井にはオルガンを訪れた多くの有名なオルガニストを始め、たくさんの方々のサインが残っている。

その他
当時設計側の総監督をしておられた 松本 洋一郎氏(当時、毛利・前田設計事務所所属) も記憶に鮮明な方である。 建設会社の責任者や現場監督との間をとってくださり、ともすると苛つく私を助けてくださった。 私には考えられないほど猛烈に働き、ついに開館の時には入院してしまわれ、式典に出席できなかった。 オルガンの保守で宮崎を訪れる折に何回か再会をして、当時を振り返ることもあった。
現在は独立して "アーキテクト3" という設計事務所を主宰しておられる。

 現場の整理をして、いよいよ組立を始めます。 タワーを建ててウィンチを取り付け部材を吊上げる準備をしています。

 この作業のためにウィンチのワイヤーも長いものに交換して備えました。

 オルガン裏の壁は音の反射を良くするためコンクリートのままにしてもらいました。 特に低音を良く出すためには大切なことです。

 壁にある2箇所の正方形の部分(まだ合板で覆ってあります)は、この壁の向こう側にある送風機室からの送風管を通す穴です。

 その上の2本の水平鉄骨が見えています。 SWの風箱を固定するための準備です。 建築の方で準備していただきました。

 オルガンの裏の部分の壁面を組み始めています。

 舞台上は運び込んだ部材で一杯になっています。

このオルガンの裏の壁は2重構造になっています。

腰に手を当てているのは
(有)日章装備 畑 敏夫氏

早くも、当工房特製 木製足場 も活躍。
木製足場は整音用に作ったものです。
静かな足場が欲しくて作りました。

 一番奥の高いところ、建築壁にSchwellWerkの壁が取り付けられています。
 建築壁への直付けは、背面からの音の漏れを少なくして スエル効果をできるだけ大きくすることも意図しています。

SchwellWerkが一応組みあがったところです。

風箱もすでに入っています。

内部の照明も点いています。

一部Schwellwerkのメカニズムも付きはじめているのが見えます。

舞台で次の部材を接着して準備しているところです。 オルガンの上から撮っています。

白黒写真で少々不明瞭です。
C側(左)のペダル部分の後壁は立っています。

正面舞台から今まさに、Cis側(右)の後壁を吊上げようとしているところです。

ペダル部分の後ろにはSubbass32'の木管がC,Cis側それぞれ6本ずつ並んでいます。

 左右のペダル部分も形になってきています。 この後、最難関のペダル部分の屋根を載せなければなりません。
タワーよりも高いので吊り上げる吊り代がありません。

左右の奥にはContrasubbass 32'の低音部が見えています。

左右から組み立てて中央で合わせる工法を初めてとりました。

中央で最後の接着ができるよう左右それぞれ10mm広く組み立て、最後にワイヤーと手動ウィンチで引き締めて合わせました。

 ペダルの塔が組みあがったところで屋根に上がってひょうきんになっている二人がいます。

 このオルガンでは、手前に立っているローリングタワーが小さく見えます。
150Kg定格のウインチを取付け 滑車を使って2本掛として300Kg程度まで吊上げられるようにしています。
 この狭い場所でこのような作業に使えるクレーン類は知る限り手に入らないためにこのような方法を取っています。

 吊り代が無い上に、クレーンのように自由な動きができません。 そのため、常に頭の中でベクトル図を描いて操作をしているようなことになります。

ここでは舞台上の平面部分との距離があるために、斜め吊りをしなければなりませんでした。 タワーの転倒防止策を考えながら作業手順を考える日々でした。

 ここでもペダルの天井からトラス(後述)が伸びて、次のHW側壁を取り付ける作業の準備ができています。

一応組みあがり、全体像が明らかになりました。

演奏台(右に置いてある)を組み込む直前です。

オルガン中央屋根の上に取付けてあるのは 木製トラスです。 一人で持てる重量であるのに、強度は大きく我々が扱う重量の多くをこれで吊上げることができます。 色々な場面で非常に助けになりました。

ここまでのオルガン外郭部は、
横浜市泉区の
  (有)日章装備装備
    畑 敏夫 雅弘 親子の力作です。

 このオルガンはいままでになく大きいので、一旦は分散発注しようと考えていました。
畑さんに『全部やらせるか、縁を切るか』と談判され、熱意に動かされて全てを任せることにしたのでした。

写真提供 小泉 匡


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