オルガンと地震 2
自分の苦い経験を通して 修復作業


落ちなかったが、損傷を受けたパイプ、固定金具はゆがみ、パイプ支えの部分はパイプに凹みを生じている。
この程度の凹みであれば現在ならばおそらく修理する決断をしていることであろう(多少痕は残るが)。
この時には、新しいパイプに交換することとした。                                
あるホールのオルガンの16'パイプを修理した経験からすればこのパイプも修理可能であった。 今となっては残念に思う。

木部の損傷は地道に接着剤を擦り込んで締め具で固定して行くのみである。
一部ボルトでゆるみ止めを取り付けた。                       
このオルガンは左右にPedal部分が張りだしている。地震で左右に揺すられた場合その部分の質量は
オルガンを分解する方向に働く。 従来はそれを押さえるのは木部の接着のみであった。

左右のPedalの天井に木片を取り付け、そしてそれにワイヤーを掛けてオルガンが左右に開くことが出来ないように処置した。(画像は後に撮影 追加)

 オルガンと建築の関係を採寸していて判ったのであるが、建築の壁もオルガン両端の上部でおよそ20mmほど開いたようであった。

オルガンに上がる階段の踊り場である。 手すりは建築壁に取り付けてあったが、地震で緩んでしまった。
補強の木片を入れたが見た目に美しくない。 その木片の上に 聖母像の庵 を作った。 あり合わせの材料
を使い、作業の合間に作った。うろこ屋根。 別の画像1 別の画像2

聖母像は、学園を経営する修道院から提供を受けた。                            
普段見えるところではないが「オルガン守護の聖母像」として学園の修道女の皆さんはよく来客に見せていらっしゃるようである。


オルガン内部から撮影、地上で新パイプ吊上げの準備をしている様子。
この高さから100Kg近い重量のパイプが落ちたのである。


16'パイプの吊上げ作業。 何回経験しても緊張する作業である。


同様、C側のパイプ吊上げ作業。 一部木部修復のために損傷を受けていないパイプも外されている。

新しいパイプの支持金具とピン。 ピンは従来よりも太くしている。 材質も軟鉄から鋼材に変更。
画像が無いのであるが、これらの太いパイプはオルガンの天井からもワイヤーで吊った。
万一支持金具が外れても落下だけは避けなければならない。

新パイプは イギリスのパイプ工房 F.J.Rogers に製作を依頼した。 従来のパイプはドイツのGiesecke製であった。
F.J.Rogersはその後経営者に不幸が続き、残念ながら閉鎖されてしまった。

新しいパイプは 口を正しく切り、整音を施した。 内部のパイプも必要に応じて整音を施した。

パイプが落下した床にはパイプの頭部が作った疵が残った。 楢の床であったので当初は補修しようかと思ったがそれは取りやめた。

地震とその被害を祈念するためにその傷跡に

"In Memoriae Terre Motus Gej-yo,
Anno Domini 2001"
すなわち「芸予地震の記憶のうちに 西暦2001年」とラテン語で記して作業を締めくくった。
(画像は後に撮影 追加)


残った6本のパイプは、貴重な材料として持ち帰った。 20年近く鳴っていたパイプの材料は簡単には手に入らない。 鋳造した直後の材料と比較すると格段に整音が楽であると感じる。 新しいパイプを作る時の材料として使わせていただく。 すでに一部はパイプになって実際に音楽を奏でている。


地震対策についての調査ご依頼を受付けております。

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Angefangen Okt.2005