オルガンと地震 III
対策 I  本体編
自分の苦い経験を通して


一般的には、オルガンは前面に大きなパイプが立ち、オルガンのデザインの重要な要素になっている。 当然前面は補強を施しにくい。 剛性の中心は後に寄る傾向にある。 反面、質量の中心(重心)は前に寄っていると思われる。 オルガンデザイン時には前面をいかに補強するかの検討が必要であろう。「 オルガンと地震 I」のオルガンを観察すると、オルガンの前面の弱さが引き金になって、オルガン後部にまで木部の損傷が至ったと思われる。

 天災の時にどのような力がオルガンに加わるのかは予測が付かない。 原子力発電所においても設計時の予測値より大きな加速度が加わったことが報道されている。 オルガン製作者にどこまで確実に安全を保証できるか? と問われると正直我々には自信を持った答えはできない。 できるオルガン製作者は居ないであろう。
ある建設会社で試験的にオルガンの耐震設計を行ったことがあるそうである。 その結果は楽器では無くなってしまうほど鉄骨を多用することになったと聞き及んでいる。

楽器に損傷が出ることはオルガンの性質上受け入れざるを得ないであろう。 人的被害を出さないためにはどうするかを考えて、当工房で行っている対策のいくつかを紹介する。

 オルガンの倒壊を防ぐため(少なくともオルガンが前のめりに倒れることは防ぎたい)に既存のオルガンをオルガンの後ろにある建築躯体と繋ぐようにしている。 建築躯体と金具で繋ぐ場合には 平鉄を鍛造して金具を作る。 金具が使えない場合にはワイヤーロープで建築と繋ぐようにしている。

 

オルガンの屋根部分にワイヤーロープを取り付けて建築躯体と繋いだ例。
木部にねじ止めする場合には、 複数のねじを使い、分散してねじ止めをするようにしている。
この例では木部に切り欠きを設けて鉄骨をそこにはめてロープを掛けている。
この下にはPrincipal16'がある。 輸入楽器 この楽器は構造がやわであったので、多数の補強を施した。
  

これはずっと小さなオルガンである Principal 8' 部分の天井にワイヤーを掛けて倒れ止めとしている。 天井に木片を 接着してワイヤーを掛けている。 我々が扱えるのは 5mmφのワイヤー までである(それ以上は手工具では圧着できない)。 このように2重がけする場合にはワイヤーが差動的に動けるように取り付けることが肝要。 さもないと一本分の強度しかでない。
  

画像があまりよくないがお許しいただきたい。 オルガンの天井部分、建築の天井にも近い。
この例では建築側で準備していただいたアンカーにワイヤーを掛けている。 この鉄製ピースのところでワイヤーが非常に小さな曲率で周っているのが気になっている。

建築側でアンカーが準備されていない場合、鉄筋コンクリート造の建築の場合、ケミカルアンカーを使ってこのような工作をしている。 カタログ上のアンカーの引っ張り強度は非常に大きく、ちょっとしたオルガン全体を吊れるほどである。 アンカー打設位置に電気・ガス・水道などの配管が通っていないか確信が持てなければならない。 建築側から確実な回答が得られなくて打設を断念することもある。

当工房で 移設・改造した輸入オルガン。 このオルガンは簡単な鉄骨構造を使っている。 しかし、その鉄骨は単なるラーメンのみで一切筋交いは入っていなかった。 筋交いを充分に追加することはできなかった(メカニズムがあったりして通す場所がない)。 可能であった部位には画像のように筋交いを追加した。 この筋交いの端から床のアンカーにワイヤーロープで固定している。 完成した楽器に追加作業をするのは容易ではない。

これもかなり大きな輸入楽器、全体にやわな構造で不安がある。 まだ大掛かりに補強はできていないが、 差当たり可能な範囲で行った。 後部壁面にアンカーをうち、オルガンの前面と繋いでいる。 オルガンの前が屈曲する恐れを感じて行った作業。 無いよりはずっと良いであろう。

この輸入楽器も所々に鉄骨を使っている。 第三鍵盤の風箱を受けている鉄骨にとにかくワイヤーを掛けて建築躯体と繋いだ。 画面左右に走る鉄骨にはワイヤーが確実に掛かっている。 しかし、画像中央から右上へ走る軽量鉄骨はたった1本の6mmφのねじで止まっているだけである。本格的地震が来た時に風箱が落ちずに済むかどうか、心配である。 完成した後に対策をとるのには多くの困難がある。

オルガン組立の時に充分な対策をとっておくべきである。そのためには計画段階での充分な検討と建設側からの協力が必要である。 これからオルガンを計画される場合には是非考慮に入れていただきたい。


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Angefangen Okt.2005